20分でわかるかもしれない!ユーステラ

20分でわかる!ユーステラ 軽量化 読み聞かせVer. (CV:神崎零)


テキストVer.(筆者:水江つたえ)

この世界の成り立ち。

【神様と地球のソシテ】

まだ人類も恐竜もいない、遥か昔の、一人の神様と二つの星のお話し。

宇宙で、ある星が死んだ。

その星の親友であった幼い神様は、星が有限である事を知ったのは、冷たくなった星を優しく抱いた、そんな時分だった。

指先に残る星の冷たさ。

あんなに美しかった星が、今はもう灰色。

「死んでしまったのだ」

神々は淡泊だ。そう言って死んでしまった、その星を神々は自分達の赤い血で染め上げて死化粧を纏わせる。

「どうなるの?」

幼い神様は心配そうな顔を見せて神々に聞いた。

聞いたのは、その後の儀式ではなく、死んだ星は生き返るんだよね、またお話しできるよねという意味で聞いたのに、

やはり幼さの消え失せた神々は儀式の意味と日程について幼い神様に説明してしまう。

「星を赤く染め上げた後、大きく膨れ上がって消えていくんだよ」

それがこの神々と星々が住まう文化でいうところの葬儀。

遥か先の人類の言葉で赤色巨星と呼ばれるそれに、幼い神様は、その、それになるのが、到底耐えられなかった。

幼い神様は赤く染め上げられた死んだ星を抱いて、何処へと走り去った。

「君を生き返らせてみせるからねっ絶対に生き返らせてみせるんだ! 絶対に!」

いつかの再会を夢見て、幼い神様は銀河を駆け巡る。

しかし広大な宇宙も、また淡泊なものであった。

そんなものは存在しない。在りはしないのだと宇宙の大きさと底の見えぬ黒が幼い神様に現実を叩きつける。

万能という存在は永遠のユートピアを、偶然や奇跡の力で創り出したいと願っている。

万能の力は、時に足りない力などない事に悩み、万能でない自分を想像する。

力を使った永遠のユートピアには、生きる楽しみ、そのものがない。

何もかもが、自分の意のままに操れる人形劇に過ぎない、この道化の成れの果てに佇めば己は生きる力を失うだろう。

その生きる力を失ってしまう、万能の力を使えば、幼い神様と死んだ星の再会など……。

幼い神様は、そんなことを考えながら、随分と遠くに来てしまった。

一つの星が明かりを照らしているその宇宙に、幼い神様は辺りを見回しながら、小さな赤星を抱いて宇宙を散歩していると、岩だらけの星を発見した。

「それは何?」

岩だらけのゴツゴツとした星は幼い神様が大事そうに持っている赤星のことを聞いた。

「親友さ。今は寝ているんだ」

「赤く火照って綺麗な星だな。起きたら友達になりたいな」

岩だらけの星が赤星を見つめていると幼い神様は岩だらけの星に生きる理由を聞いた。

「君はここで何をしているの?」

岩だらけの星は言う。

「偶然を待っていた」

思いがけない出会いに、神とその星はすぐに打ち解けて友達になった。

二つの生命は、この悠久の時の中で青春を見つけた。暗く広大な宇宙で育まれた、神と星のたった一つの友情。

幼い神様はある時にふと思った。

出会いが、そしていずれ、別れがやってくる。その時、再会がやってこなければならない。

ちょっとした寄り道のつもりだったのに、今はかけがえのない青春の日々。

そろそろ行かなくてはと、幼い神様は決心した。

そして、暫くして別れの時がやってきたのだ。

それを切り出す幼い神様。

「私には何もないんだ。何もかもが」

神は遠くの宇宙を悲しい瞳で見つめて言った後、隣に寄り添う星に顔を向ける。

「だけど君は違う」

「僕が?」

「君は色んなものになれる」

「こんな岩だらけの僕がかい?」

「そう。だから私も探さないといけない。この私の命を懸けて、再会というものを」

神様は目を星々のように輝かせて言った。しかし星は違う。ただ別れるのが悲しかった。

「どうか行かないでほしい」

星は幼い神様を引き止める。

「しばしの別れも惜しい。しかし本当に悔やみきれないのは永遠の別れだ」

「そうか。やはり君の持っている、その赤い星は」

星は幼い神様と初めて出会った時から、赤星が死んでいる事に気付いていた。

それを言わなかったのは、この自らを岩だらけと称する、この星が偏に優しい星だったからに他ならない。

一人の幼い神様と一つの星はお互いを見つめた後、星が言った。

「待つ身は辛い。君さえ良ければ、赤星を私の元に預けることは出来ないか?」

「私の友人を、君という友人に?」

「寂しい時は、この美しい赤星を見つめて、君を思い出したい」

幼い神様は赤星をしばしの間、見つめた後、赤星を手放した。

「分かった。君に預けるよ」

幼い神様の手から離れた赤星は、岩だらけの星に預けられる。

静かな星だ。

静かに岩だらけの星を回っている。

岩だらけの星が赤星に見とれていると、幼い神様は一言「またね」と告げて旅立った。

大事な赤星を手放した、幼い神様の足取りは、軽かったのだろうか重かったのだろうか。

岩だらけの星は段々と小さくなる幼い神様を脳裏に焼きつけながら、そう思った。

星は神様の帰りを待ち続けた。

そして長い時が流れた。

帰ってこない神様の事を思えば思うほど、星に悲しみがこみ上げた。

星は涙を浮かべ、やがてそれは海になり青い星へと変化し、赤星も長い時を経て、あの染め上げられた神々の血は結晶と化して、剝がれ落ち、青い星の元へ降り注ぐ。

赤い結晶は青い星の涙に溶け込み、生命が誕生した。

やがて青い星は地球と呼ばれ、赤い死化粧の取れた銀色の星は月と呼ばれることになる。

そして更に長い時が流れる。

ソシエルという名の天使がいた。

その天使は神々から幼い神様の捜索役として選ばれて、宇宙を駆け巡って探し回る日々が続いていた。

そしてやっとの思いで、幼い神様を見つけ出すソシエル。

ソシエルが幼い神様を遠くから眺めると、もう既に立派な大人の神に成長しているように見えた。

これで連れ帰ることが出来ると自らの役目に対して胸を撫で下ろすソシエルであったが神様に近付いた時に、それが無理だと、すぐに悟った。

連れ帰ることは不可能だと。

神様は有限の生命を選んで、間もなく命が尽きようとしていたのだ。

今まで、この旅の果てに通じた、この道程に何があったかは神様でしか知り得ない。

死が間近に迫っているのに神様の安らかな顔は、まるで自分だけが触れられる事が出来る宝物を手にしたかのように、ソシエルにはそう見えた。

「なぜですか」

ソシエルは聞いた。命を放棄した理由を。

「今が別れの時だからだ」

神様が満足気な表情を浮かべる、この一言に、ソシエルは全くもって意味が分からなかった。

永遠の生を手放すその理由。

天使ソシエルにその答えを導く事は、今は出来なかった。

「私には分かりません」

「私にも分からなかった。だが旅をして分かるようにになった」

ソシエルは神の死を見たことも、同族の天使の死を経験した事もなかった。

今まで天使として神々から与えられる仕事を、ただ淡々とこなしてきた。

物事は神々が決める。与えられた仕事に精を出し、深い事は考えず受動的な日々を送ってきた。

その天使の目の前には今、死を見せつけられている。

何故、死ぬ。

「理由を知りたいのです」

神様の死に、ソシエルは一つの探求心が芽生えた。この選択に至った理由を、神様の生き様を。

「そうか。こうやって出会いが……」

神様は小さく呟いた後、ソシエルに太陽系の位置を教え、そして言伝を頼んだ。

親友の星に自分が死んだことを。

「親友の星の特徴だが……行けばすぐにわかる」

そして、神様は死んだ。

ソシエルは神様の死の理由の真相と、親友の星に神様が死んだことを伝えるために太陽系に赴いた。

太陽系にたどり着いたソシエルは、神様の言った通り、どの星が神様の親友なのかすぐに分かった。

神様が大事にしていた星が、青い星の周りを回っている。

あの青い星だ。

「あの青く輝く美しい星が神様の親友……」

ソシエルは、地球に近付いた。

「君は?」

「神様を探していた天使です。神様から伝言があります」

そしてソシエルは地球に神様が死んだことを伝えた。

地球は神様の死の報せを聞いて、ただ黙って宇宙を見つめた。

地球は信じなかった。

「神様は絶対に帰って来る」

地球はそう言って、神様の帰りを待ち続け、不憫に思ったソシエルもまた、神様の死を目撃したにも関わらず地球と共に神様の帰りを待った。

帰りを待ち続け、やがて地球に向けて隕石が降り始めた。その隕石は、あの神様の亡骸の一部であった。

ようやく神様は再会という約束を果たしたのだ。

『そう。だから私も探さないといけない。この私の命を懸けて、再会というものを』

地球は在りし日の神様の言葉を思い出した。

「遅かったね。ずっと待っていたんだよ」

地球は笑顔だ。

神様の亡骸の一部が隕石となって地球へ降り注ぐ。

「宇宙は暑いし、寒いし、大変だったろう。身体もボロボロじゃないか。今は僕の中は暖かいんだ。

 君をきっと癒してくれるよ。色々土産話も聞きたいよ。私もたくさん色々あったんだよ。

 たくさん、色々あったんだ。あぁ、君の言う再会が、こんなに、こんなにも美しいものだとは」

そして地球と神様は一つになった。

地球は神様との再会を果たせたことで満足し、後の事は地球の中の生命に任せ、自らは永遠の眠りにつこうとした。

「待って!!」

ソシエルは何故、意思を放棄するのか地球に聞いた。

地球は微睡む意識の中で、神様と語らう夢を見ながら答える。

「答えは私達の中にある。私達の地球を訪ねて」

–私達の地球を訪ねて–

そう言って地球は、天使に笑顔を見せて、そして、沈黙した。

この地球と神様の物語の中に、そして、そして続く地球の中の物語に答えがある。

最早、ソシエルに一切の躊躇いはなかった。

何としてでも答えを知りたくなったソシエルは自らの天使の役目を放棄し、そして地球へ堕天していく。

地球を回る銀色の月もまた、生きているかのように姿を変え、地球へ舞い降りるソシエルを、そして生きとし生ける地球の生命を優しく見守った。

これは神様と地球と月の、出会い、別れ、そして再会の物語。

そして、この美しい地球に住まう生命の物語も始まろうとしている。

この美しい物語を、神様と地球が、教えたがっていて。

出会いと別れと再会を。